ななめに吹く笛とオリエンタルな音色の弦楽器の響宴

羊飼いの笛カヴァルと、宮廷音楽で使われるネイ。どちらもななめに構えて吹く不思議な音色の笛です。この笛を演奏する石田秀幸さんと、ロングネックのリュート型の楽器サズを演奏してくださった石田美香さん。ご夫妻でトルコとその周辺の音楽を学び、演奏活動を続けています。

トルコ音楽について

 トルコの音楽は大きく「トルコ古典芸術音楽」と「トルコ民族音楽」に分けられます。トルコ古典芸術音楽はアラブ、ペルシャ、ビザンツの音楽を元に、主にオスマン帝国時代に継承され、発展した音楽です。作曲及び演奏は「マカーム」=旋法の体系、「ウスール」=リズムの体系に基づき、音楽の教育は師匠から弟子への稽古によって行われてきました。

 

オスマン帝国は多民族国家で、ギリシャ系、アルメニア系、ユダヤ系、バルカン半島の諸民族からなり、時にはヨーロッパ人など様々な都市住民が音楽の作曲、演奏を担いました。オスマン帝国時代の都市部における音楽は、主に宮廷を中心として栄えていきます。宮廷専属の音楽家だけでなく職人や宗教関係者などの本職を持つ多くの音楽家が宮廷の内外で活躍しました。時にはスルタン自身が音楽家であった例もあり(セリム3世など)、その作品は現代まで残っています。

イスラム神秘主義教団(スーフィー)の道場、軍隊(イェニチェリ)も音楽の実践、継承などにとって重要な場でした。スーフィーにとっては、音楽と旋回舞踊(セマー)は神と一体になるための重要な宗教行為であり、コンヤに本拠地を持つメヴレヴィー教団は、オスマン帝国の庇護を受けて栄え、この時代の音楽を語る上で欠かせない存在となっています。

 

一方の「トルコ民族音楽」はトルコ各地に伝わる地方音楽の総称。トルコ系民族が中央アジアからもたらしたもの、古くからその地域に伝わってきたもの、ギリシャ人、アルメニア人、クルド人等様々な民族によるもの、これら全てがトルコ民族音楽といえます。古典音楽にあるような統一的な理論はありません。歌は、リズムの無い「ウズン・ハワ(長い歌)」と、リズムのある「クルク・ハワ(短い歌)」に大別できます。それぞれ地方によって様々なスタイルがあり、踊りのための歌や器楽曲も数多く存在します。弦楽器のサズは非常にポピュラーな楽器で、ほとんどの地方で使われています。

 

Profile

石田秀幸(カヴァル、ネイ)
慶應義塾大学文学部在学中より、アンデスの笛ケーナの演奏を始め、卒業後、大手ゲームメーカーの企画職として働きつつ、いくつかのTVゲーム用BGMにて民族楽器を演奏する機会を得る。1999年より、カヴァル、ネイなどの、斜めに構える笛の魅力に惹かれ、自作の塩ビ管楽器にて独学を始める。2002年8月、独学でどうしても解消できない疑問を学びたい欲求が高まり退職を決意。準備期間を経て、2003年9月より一年間、トルコのイスタンブールに滞在。トルコ、ブルガリア、マケドニアにて現地奏法を学ぶ。2004年9月に帰国後、かねてからの構想を実現すべく、2つのグループ「バルカノータ」「オスマノータ」の活動を開始。現在に至る。

 

石田美香(歌、サズ、タンブーラ)

 

トルコ文化センターにて大平清氏にサズを四年間師事。2003年秋より一年間、トルコ共和国イスタンブール市に滞在、サズ奏法の取材・学習。それまでの成果をもとに演奏活動を行う。ブルガリアやマケドニアの、サズと同じロングネックリュート属の弦楽器タンブーラの演奏も行う。主にトルコ民謡をレパートリーとし、独特な歌声にも定評がある。


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